電力供給エリア間 の連系強化           

 

 

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1 飛騨信濃周波数変換設備の運用開始

2021年3月末に次のような報道がありました。
『東京中部間に建設された「飛騨信濃周波数変換設備(FC)」が31日に運用開始する。中部電力パワーグリッド(PG)が岐阜県高山市内に、容量90万キロワットの飛騨変換所を新設。東京電力パワーグリッド(PG)は既存の新信濃変電所(長野県朝日村)に交直変換設備を増設、飛騨と新信濃を結ぶ飛騨信濃直流幹線(亘長89キロメートル)の建設を担った。運開後のFC容量は、現状の120万キロワットから210万キロワットに拡大する。』(電気新聞2021/03/30;関係各社もプレスリリース1) を行い、NHK等でも一斉に報道)

 第1図 飛騨変換所
(中部電力PG(株))

90万キロワットは一般家庭約30万世帯分の電力消費に相当する規模です。新設された飛騨変換所の全景を第1図に示します。

 

2 小冊子記事と関連づけた解説

小冊子「電気の知識を深めようシリーズVol.5 - 電気を送る・配る」のpp.16-20には、日本の電力システムの現状と歴史を簡潔に説明した「電力システムの規模について調べる」があります。この小冊子は2016年に発行されましたが、その後も電力システムで、新たな進歩の歴史が作り続けられています。東京中部エリア間の連系を中心にして、本州と北海道の連系にも触れる形で、小冊子の記事を補ってみましょう。共通するキーワードは「直流連系」「連系強化」「電力融通」で、その背後にある考え方は、公益性の高い電気エネルギーの安定供給と効率運用です。なお、電力システムや電力系統、グリッドなどの用語については、小冊子Vol.5のp.17の脚注に説明がありますので、参照してください。


東京側(東日本)のグリッドは交流(AC)の電気で、その周波数は50ヘルツ(Hz)で、中部側(西日本2) )も同じ交流ですが周波数は60Hzです。周波数が異なるグリッドを直接つなぐことはできません3) から、一度交流50Hz(60Hz)を直流(DC)に変換(順変換)して、それを交流60Hz(50Hz)に変換(逆変換)する形でつなぎます。グリッド同士をつなぐことを「グリッド連系」と呼びます4)
一方のグリッドで電力が不足し、他方に余剰があるとき、連系線を通して電力を融通すれば電力の不足を解消できます。公益性の高い電気エネルギーの供給信頼度を高くできれば、社会的に価値があります。東日本と西日本の間は佐久間、新信濃、東清水の3か所の周波数変換設備(FC)で連系されています 5)。冒頭の報道は、これら3か所のうちの新信濃に関わります。第2図に図示してみましょう。当初60万キロワットだった新信濃変電所の周波数変換設備は、東日本大震災の結果で生じた東日本の電力不足を背景として、120万キロワットに拡充されていましたが、今回飛騨変換所の開設に伴ってさらに90万キロワット拡充されて、この地区の連系容量が210万キロワットになりました。

第2図 長野と岐阜にまたがる連系設備(飛騨信濃周波数変換設備)

 

3 技術開発

この背景には、いろいろな技術の研究開発がありました。第2図や周波数変換設備の写真(第3図)を見ながら、グリッド連系にかかわる技術について考えてみましょう。まず、どこにどれだけの規模の設備を作るかの検討が必要になります。電力自由化6) に関連した産業組織論的研究や電気エネルギーの社会インフラの重要性など、多様な研究が必要になります。どこにどれだけの規模の設備を置くと、電力系統にどのような影響が及ぶのかも電力系統工学的な重要な研究になります。発電所、送電線、需要家それぞれの工学的振る舞いはかなり明確に表現できますが、それらをつなぎ合わせた電力系統は、人間一人ひとりが個性を持つように、異なった特性になります7) 。日本の電力システムは10のエリアに分けて考えるのが一般的ですが、それぞれのエリアが異なる特性を持っていますから、ある特定のエリアを連系すると、今回の場合は東京電力PGと中部電力PGのエリアを周波数変換設備で連系すると、グリッドがどのようにふるまうのかをきちんと研究することが必要になります。そこでは安定度8) とか信頼性など、いろいろな側面からの検討がなされます。

 (a) 飛騨変換所側
提供:中部電力パワーグリッド(株)
 
 (b) 新信濃変電所側
提供:東京電力パワーグリッド(株)

 

第3図 周波数変換設備


4 東西連系

 周波数変換設備そのものにも、いろいろな研究開発課題があります。中核部品はサイリスタと呼ばれるパワー半導体で、それ自体の性能向上も日進月歩です。サイリスタを組み合わせて装置にし、それを的確に制御する技術も高度なものです。飛騨変換所と新信濃変電所の間は直流送電線で結ばれていますが、その両端には直流遮断器がおかれています。何か事故があったときに送電線を自動的に機械的に遮断して、事故の悪影響を防止するのですが、この直流を切る技術はたいへん高度なものです9)

東日本大震災(2011年3月11日)当時の東西連系ポイントは、前述のとおり3ヶ所あり、Vol.5にもあるように新信濃が60万キロワット、佐久間10) と東清水がそれぞれ30万キロワットでした。その後の展開を表にしてみましょう。小冊子発行時の連系容量は東日本大震災発生時(2011年3月)と同じで、3地区の周波数変換設備(FC)合計で120万キロワットでした。それが現在は210万キロワットになり、2020年代終盤には330万キロワットに増強されて、電力の安定供給、効率運用に貢献してゆくことになります。

第1表 東西連系容量

 

5 北本連系

最後に、本州北海道のグリッド連系に触れます。小冊子Vol.5の図6「日本の電力システム(連系グリッド)」(p.18)の北本連系線11) にかかわります。そこには次の記事があります。

第4図 北海道・本州間連系の2ルート

提供:北海道電力ネットワーク(株)


『北海道と本州は函館と上北に交・直流変換設備を設置し、この間を架空送電線および海底ケーブルで結んでいます。』
北海道ネットワークも東北電力ネットワークも、周波数は同じ50Hzですが、その間に横たわる津軽海峡は、空に送電線を通せるほど狭い海峡ではありませんから、海底ケーブルで結ぶことになります。長距離の海底ケーブルでは交流は使えず直流にしなければなりませんので、両側に交直変換設備を置いてその間を直流送電線で接続することになります。

この連系線は北本直流幹線と呼ばれ、当初30万キロワットで運用を開始し、その後2倍の60万キロワットに増強されて運用されていました。常時の需給調整に使われつつ、2011年の東日本大震災に際しては、北海道からの電力供給支援に大きな力を発揮しました。その後さらなる設備増強の必要性が議論され、第2の設備として新北本連系設備(正式名称:新北海道本州間連系設備)12) の新設が決まりました。海底ケーブルは青函トンネル内を利用して敷設しています。2014年に送電線の設備工事が開始になり、2019年3月28日に運用開始しました。設備容量は30万キロワットです。二つのルート合計で90万キロワットの電力融通が可能になりました(第4図13) 、第2表参照)。地球環境問題で温暖化ガス排出の実質ゼロ化が叫ばれ、太陽光発電や風力発電が注目されています。風力発電は風況がよい地域でないと設備効率が上がりませんが、北海道には適地があり大規模な開発が期待されています。風次第の不安定な電源設備ですから、北海道エリア単独では系統容量が小さいのでその悪影響が問題になりますが、北海道本州の二つのルートを運用することで、系統運用の安定性、柔軟性の向上が期待できます。

第2表 北海道・本州連系容量


北海道といえば、2018年9月6日(水)午前3時8分に発生した北海道胆振東部地震と、それに伴うブラックアウトを記憶されている方も多いでしょう。この地震のときにもし北本第二ルートが運開していたら、ブラックアウトはおこらなかったとの見方があります。わずか7ヶ月の差で、間に合いませんでした。歴史にタラレバはありませんが、社会インフラとしての電力設備を開発し運用している努力が、関係者によって日夜続けられていることは理解できますね。

 

6 さらに先へ

ここで解説したグリッド連系について、さらに知りたい方のために、いくつか参考課題を提示してみます。
(1) 前章までの説明は、周波数が異なるエリア間の連系、あるいは周波数が同じだが遠く離れているエリア間の連系です。それ以外の連系もあります。日本全国にある連系設備を調べ、なぜそこに連系設備が必要なのか考えてみましょう。
(2) 二つの交直変換設備を向かい合わせにして間の距離をおかずに直結する接続方式を、バック・ツー・バック接続(BTB)と称します。異なる周波数のグリッド間連系ではBBは一般的ですが、同じ周波数のエリア内でもBBを用いる場合があります。それはどのような場合なのでしょうか。
(3) 交直変換設備には二つの制御方式があります。他励式と自励式です。それぞれの長所と短所を調べてみましょう。(ちなみに、従来からある北本連系設備は他励式、新北本連系設備は自励式が用いられています。)
(4) 記事冒頭の説明に出てきた新信濃変電所は東京電力パワーグリッドの変電所ですが、所在地は長野県朝日村です。長野県にお住まいの方は「アレッ」と思われたのではないでしょうか。そうです。長野県の送配電事業者は中部電力パワーグリッドで、電気の周波数は60Hz。東京電力パワーグリッドは50Hzです。どうしてこのようになっているのか調べてみましょう。(ヒント)黒四ダムを管理するのはどこの会社でしょうか。

以上(2021.4 社会連携委員会)


1) プレスリリースはたとえば次のもの。
 https://www.tepco.co.jp/pg/company/press-information/press/2021/1591426_8616.html
 https://powergrid.chuden.co.jp/news/press/1206089_3281.html
 https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2021/04/0401b.html
 https://www.toshiba-energy.com/info/info2021_0401.htm

2) 日本の電力供給エリアを東日本地域、中日本地域、西日本地域と、三分する場合もあります。その場合には中部電力PGは中地域になります。また、電力自由化以降、電力供給を担う事業者が多様化され、東京電力管内とか中部電力管内といった呼称が使いにくい場合が増えました。そのため、東京エリアとか中部エリアと呼ぶようになってきています。旧来、日本には10電力があると言ってきましたが、今は10のエリアがあるということになります。またエリア間の連系が安定供給と効率運用にたいへん重要になってきており、その中核的役割を電力広域的運営推進機関(OCCTO;オクトと略称、設立は2015年4月1日)が果たしています。OCCTOには全ての電気事業者に加入する義務が課せられています。電気事業者は送配電事業者、小売電気事業者、発電事業者からなります。

3) 小冊子Vol.5のp.19の脚注19参照。

4) 用語は連系であって、連携ではありません。発電、送配電(グリッド)、電力消費を含む全体を「電力システム」と呼び、この送配電(グリッド)部分を「電力系統」と呼びますが、異なる系統を電気的に連絡するのですから「連系」です。グリッド連系と系統連系は同じ意味です。

5) 小冊子Vol.5の図6(p.18)参照。

6) 小冊子Vol.7に「5 電力自由化とは」(pp.58 - 73)参照。

7) 小冊子Vol.5のp.16のコラム「電力システムは巨大生物 ~ まるでマンモス、そして人類が創造した最大級の複雑システム」をご覧ください。

8) 電力系統の安定度についてはここでは触れません。関心がある方は小冊子Vol.5の「4電気の性質をうまく使って届ける」(pp.73 - 110)をご覧ください。

9) 直流の遮断技術については、小冊子Vol.7の「直流技術の研究開発」(pp.37 - 38)をご覧ください。

10) 佐久間周波数変換所はその歴史的価値を広く世の中の方々に知っていただくため、電気学会の「でんきの礎」(第10回)で顕彰しています。
 https://www.iee.jp/file/foundation/data02/ishi-10/ishi-0809.pdf

11) 北海道・本州間電力連系設備(北本直流幹線)は日本初の本格的直流送電設備です。その歴史的価値を広く世の中の方々に知っていただくため、電気学会の「でんきの礎」(第6回)で顕彰しています。
 https://www.iee.jp/file/foundation/data02/ishi-06/ishi-2021.pdf
電気学会誌にも次の記事があります
 竹之内 達也「北海道•本州間電力連系設備の概要」、電学誌100巻8号 pp. 727-734(1980)
 https://www.jstage.jst.go.jp/browse/ieejjournal1888/100/8/_contents/-char/ja

12) 送電線の名称は「北斗今別直流幹線」です。

13) https://www.hepco.co.jp/network/stable_supply/efforts/index.html

 

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電力供給エリア間の 連系強化の
社会的価値について
      

 

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(※ 先に「一歩先へ」に掲載した「電力供給エリア間の連系強化」(既報)が技術面を中心とした内容であったのに対し、この記事は社会的価値面に注目したものです。)

 連系線を増強するには、費用と時間がかかります。綿密な検討により、連系線増強で新規創出される社会的価値が、その費用や時間に見合うものだと判断されて初めて、増強の意思決定がなされます。全国の電力需給を調整する「電力広域的運営推進機関(OCCTO)」のとりまとめ(2021年4月29日)1)でも、洋上風力4,500万キロワットが適地に導入されるシナリオで連系線の整備費用が最大で4兆8000億円、年間換算コストで4,500億円に対して、年間メリットが5,100億円と見積もられ、その費用対効果の成立が検討されています。

 それでは連系線の社会的価値とはどのようなものなのでしょうか?考え方2)はいろいろありますが、大きくは、①電力の安定供給確保、②地域を越えた電源立地・活用の促進、電力取引の活性化(電力自由化の促進を含む)、③再生可能エネルギーの導入促進、の3つが挙げられます。個別に見ていきましょう。

① 安定供給確保
 特に今回の東京中部間FCの90万キロワットの増強(飛騨信濃周波数変換設備の運用開始)、そして既報でも触れられている2019年の北海道本州間連系線30万キロワットの増強3)も、この価値を創出するという目的が大きいのです。FC増強のきっかけとなったのは2011年3月の東日本大震災です。東日本の供給力が広域的に不足したことで、西日本からの融通が必要となったにもかかわらず、当時の設備容量が120万キロワット4)で不十分だったのです。それまでもFC増強に関する費用対効果の検討がESCJ5)でなされていましたが、やはり連系線増強に費用と時間がかかることから、2007年の新潟県中越沖地震に伴う需給逼迫を踏まえた30万キロワット増強がESCJより2009年3月に提言されるに留まっている状況でした。
 今回の90万キロワットという増強規模は、東日本大震災の教訓を生かした再検討で、「平常時に必要とされる予備力(系統容量の8%)が確保されている状況において、想定される電源停止リスク(同10%程度)が発生しても、追加供給力対策を実施後に系統の安定に最低限必要とされる予備力(同3%)が確保されること」6)を目標として評価された結果です7)。FC全体としては120万キロワットから210万キロワットに増え、事故や災害発生後の計画停電や節電による社会的影響を小さくできるメリットや、エリア間での予備力シェアリングで同じ供給信頼度を確保するのに必要な予備力を削減できる副次的メリットが創出されています。

② 電力取引の活性化
 これは、再生可能エネルギーの導入量が少なかった過去に時代でも、既存の発電所の運用の効率化のために必要とされていた価値と言えます。コストの安い発電所がたくさん立地するAエリアと、コストの高い発電所がたくさん立地するBエリアがあると想定します。連系線がなければBエリアはコストの高い発電所の電気で賄わなければいけまません。連系線でAエリアの安い電気をBエリアに流すことができれば、その分だけBエリアの発電所の高い電気は必要なくなります。このようにして時々刻々、発電コスト8)の安い順番に発電させる「メリットオーダー」を実現させていくことで、より経済的な発電量の分担が可能になり社会全体としての発電コストを安くする価値を連系線が創出するのです。
 長い間、電気事業は規模の経済性から自然独占9)が成立するとされ、いわゆる10電力会社(一般電気事業者)が電気の発電・送配電・販売を一手に担ってきました。しかしこの発送配電一貫体制による独占では、競争原理が働かず、諸外国と比較した電気料金の高止まりが問題視されるようになりました。諸外国で電気事業の自由化が開始されていた背景も重なり、1990年代半ばから日本においても、競争原理の導入が馴染みやすい発電部門が、続いて小売部門が段階的に自由化される流れとなりました。一方、送配電部門については引き続き二重投資防止のためにも公的規制の下での独占が望ましく、また全ての事業者が共同利用するという特性上、発電・小売部門とは分離して中立化しつつ、広域的な連携等を促進することとなりました。電力自由化によって、再生可能エネルギーを含めた新規の発電事業者や小売事業者(新電力)など、新しい形態の事業者が数多く生まれました。連系線は競争環境の下でそのような多くの新規の事業者にも有効利用され、地域を跨ぐ取引が活性化されることで、役割と社会的価値がさらに大きくなりました。
 なお、公共性の高い電気事業のあり方として、シミュレーション等により合理性を説明できる平常時の競争原理だけでなく、異常時への備えも大切です。自由化環境下の体制でも、地震、津波、台風等の異常時にどのように被害を早期に復旧し、電気が不可欠な今の社会生活を支えるか、人的資源の質と量の確保を含む対応策も、十分考えるべきことは、言うまでもありません。

③ 再エネ導入促進
 我が国が再生可能エネルギーの主力電源化10)を目指すようになり、さらに2050年のカーボンニュートラル宣言がなされた今、益々大きくなっている価値です。再生可能エネルギーは、我が国においては導入適地が偏在しているという問題点があります。北海道や東北、九州で導入が集中する太陽光・風力の電気が、大消費地である首都圏や関西圏へ円滑に流せないと、せっかくの太陽光・風力の出力を抑制する、つまり電気を捨ててしまうような時間帯がたくさん発生します。CO2削減という再生可能エネルギーが本来発揮できる役割を果たせません。そのようなことでは太陽光・風力の投資採算性が悪くなり、事業者も建設の意思決定に二の足を踏み、再エネ導入は思うように進まないでしょう。エリア内の蓄電池導入も、充電時の余剰電力の活用や放電時の火力発電減少に有効ですが、やはり費用対効果の観点から蓄電池大量導入で問題の全てを解決することはできません。このような背景から、連系線に期待される役割と社会的価値がさらに増大していることを踏まえ、費用対効果を綿密に検討しつつ、連系線を大幅に増強しようという非連続的な新しい取り組みは、今まさに大きく歩みを始めていることは冒頭に書いた通りです。ちなみに、4兆8000億円という費用規模は、2019年度の電力10社の送電・変電部門の設備投資総額の約9年分となります。この計画は、北海道と東京の両エリアを直接結ぶ、900kmの日本海経由ルートおよび700kmの太平洋経由ルートの2ルートの海底HVDC新設も含みます。これが実現すれば、現状の90万キロワットの北海道本州間の連系線容量に増強分800万キロワットが加わる壮大なプロジェクトです。

 最後になりますが、連系線増強は、特定の事業者だけが受益者となることは基本的にありません。①②③で生まれるメリットは、やはり最終的には、社会全体、つまり全ての電気利用者に還元されるものとなるでしょう。連系線はとても公共性の高いインフラなのです。そして、連系線の増強によるコストは電気料金に上乗せされ、第1図のように最終的には全ての電気利用者が負担することになります11)12)

第1図 地域間連系線の増強費用を全国の電気利用者で支える仕組み

(持続可能な電力システム構築小委員会中間とりまとめ(2020年2月)より作成)

https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/system_kouchiku/pdf/report_002.pdf


 発電インフラを保有する発電事業者に対しては、自由化環境下で総括原価制度がなくなっても、市場の仕組みを活用することで、電気の安定的・効率的供給と確実な費用回収を実現するという総括原価的な考え方も残そうとしていると言えます。

以上  
(2021.6 社会連携委員会)


1)  「マスタープランに関する議論の中間整理について~連系線を中心とした増強の可能性~」https://www.occto.or.jp/iinkai/masutapuran/2021/files/masuta_9_01_01.pdf

2) 系統連系の利点については、小冊子Vol.5のp.17の脚注18もご参照ください。

3)北海道本州間連系線30万キロワットの増強で、日本で初めて採用された自励式の交直変換設備が、今回のFC増強で2例目として採用されています。自励式は周囲が停電状況でも単独で起動・運転できるため、安定供給への貢献効果は格段に向上します。

4)設備容量は120万キロワットありましたが、東清水周波数変換所のアクセス送電線との関係により100万キロワットに制限されていました。東日本大震災に際して、東京向きの運用容量を103.5万キロワットに暫定拡大しましたが、120万キロワットの全量が融通可能となったのは2013年2月のことでした。

5)電力系統利用協議会(Electric Power System Council of Japan):OCCTOの前身組織で、発足は2003年2月。2015年3月にOCCTOに業務を引き継ぎ解散。

6)予備力については、小冊子Vol.3のp.40の脚注16をご参照ください。

7)その詳細は当時の「地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会の報告書(2012年4月)」をご参照ください。
https://warp.da.ndl.go.jp/collections/content/info:ndljp/pid/11067906/www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/004_10_00.pdf

8)サンクコストである固定費は含まない発電コストであり、時時刻刻の電力系統運用において、追加で発電するのに必要な限界費用を指す。通常は太陽光・風力<原子力<火力(高効率<低効率)の順。「限界費用」とは、経済学において生産量を一単位増加させた場合にかかる生産費用の増加分。

9)自然独占は公共的性格の高い事業の経営上も公共経済学上も重要な概念です。電気事業における自然独占については、「忘れられた巨人サミュエル・インサル -電気事業のルーツにみる真のイノベーション」(松田道男著、電気学会社会連携委員会編、2020年)の「自然独占という概念の創出」(pp.24-27)を見てください。次のURLに案内があります。
https://renkei.iee.jp/pamphlet/page_20210105095440

10)再生可能エネルギーの主力電源化は2018年7月に策定された「第5次エネルギー基本計画」で最初に明確に打ち出されました。
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/

11)具体的には、託送料金で回収するとともに、再エネ由来の効果分(価格低下及びCO2削減)については、再エネ特措法上の賦課金(FIT賦課金)方式を活用して回収する、その大枠が、2020年6月のエネルギー供給強靱化法において決まっています。地域間連系線の増強に伴って一体的に発生する地内系統の送電・変電設備の増強についても本方式を活用して回収します。
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200225001/20200225001.html
OCCTOがとりまとめた連系線整備シナリオにも対応し、費用負担の在り方の更なる詳細は、整備の優先順位等の他の課題とあわせて、今後経済産業省で継続的に検討されていきます。

12)このように、公共性の高い事業で、総費用に一定の利潤を加えて確実に費用回収する考え方を総括原価方式と呼んでいます。その先鞭をつけたのは、サミュエル・インサルです。「忘れられた巨人サミュエル・インサル」の第二章「サミュエル・インサルのもたらしたイノベーション」にも解説されています。

 

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 東京スカイツリー®と雷
 東京スカイツリー®と雷

 

  雷はいろいろなところに落ちます。この写真は落雷の瞬間を見事にとらえていますね。もっと写真を見たかったり、自分で写真を撮りたかったら、ここを訪問してみましょう。

 皆さんは東京スカイツリーを知っていますね。634メートルの高さは、自立式電波塔としては世界一です。雷は東京スカイツリーにも落ちます(「東京スカイツリー 落雷」で映像や動画をネット検索してみましょう)。では雷の研究に東京スカイツリーが役立っていることを知っていますか。

 小冊子のVol.7でも説明されているように、雷は電力設備にとっては大敵です。電力設備への落雷による停電や被害を防ぐためには、雷の特性を明らかにする必要がありますが、そのためには多くの落雷データを蓄積して解析する必要があります。雷がいつ、どこに落ちるかは判りませんが、高い建物には雷が落ちやすいことが判っています。このような背景から、世界一の高さの東京スカイツリーで雷の観測が、電力中央研究所と東京スカイツリーの共同研究で、2012年から行われています。

 東京スカイツリーに落ちた雷は、柱を通って地面に逃げてゆきますので、塔の中にいる人間は安全です。柱を通っていることをどうやって調べたらよいのでしょうか? 塔を支える柱にコイルを巻きつけておくのです。柱を通る雷の電流によって、コイルに電流が流れるで、それを測るのです。コイルにはロゴスキーコイルという名までがついています。一階の通路からスカイツリーを支える柱を見てみましょう。写真にある赤い輪を見つけたらあなたは偉い。その輪(パイプ)の中に、塔脚を流れる電流を高感度で検出するコイルが入っているのです。
 ではロゴスキーコイルがあるのはここ一か所だけなのでしょうか。実は驚くなかれ、上部展望台のさらに上にもあるのです。写真で研究者が指をさしているパイプの中にコイルがあります。
 これまで東京スカイツリーでは年平均10回程度の雷が観測されており、多くの新しい知見が得られており、それらは論文などの形で公表されています。市販本もあります。興味がある人は読んでみましょう。

宮地 巌: 「雷を電気と認めた時代と科学者の回想(Ⅰ)」 電気学会誌 121巻5号(pp.326-329) 2001年
宮地 巌: 「雷を電気と認めた時代と科学者の回想(Ⅱ)」 電気学会誌 121巻6号 (pp.391-394) 2001年
横山 茂、石井 勝: 「写真で読み解く雷の科学」、 オーム社 2011年
新藤孝敏: 「雷をひもとけば 神話から最新の避雷対策まで」、 電気学会 2018年
新藤孝敏: 「雷観測今昔ものがたり -フランクリンの凧から東京スカイツリーまで-」 電学誌 138巻12号 (pp.815-818) 2018年

 

 電気学会では基礎・材料・共通部門(A部門)の放電技術委員会と電力・エネルギー部門(B部門)の高電圧技術委員会が主にその研究を推進しています。

  

 

日本の電力の 将来を考える 参考資料

    

 

 

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 「米国の電力の将来(The Future of Electric Power in the United States)」という報告書が刊行されました。日本の電力の将来を考える参考書になると思いますので、紹介します。小冊子「電気の知識を深めようシリーズ」のVol.7の「電力自由化とは」(pp.58-73)と併せてお読みください。


https://www.nap.edu/read/25968/chapter/1(こちらをクリック)

 米国には全米科学、エンジニアリング、医学の3つアカデミーがありますが、そこに設置された “Committee on the Future of Electric Power in the U. S.” が取りまとめた報告書です。報告書の概要は次のようになっています。

『電力はすべての米国人の生活と生活に不可欠であり、安全で、クリーンで、手頃な価格で、信頼できる電力の必要性は、今後何年にもわたり高まるばかりでしょう。全米アカデミーズは、議会とエネルギー省の要請に応じて、専門家委員会を招集し、米国の電力システム(grid)の包括的な評価と、新エネルギー技術の進歩、需要の変化、および将来のイノベーションに対応して電力システムがどのように進化するかを評価しました。
この報告書は、米国の電力システムの近代化を目的とした一連の広範な政策と資金投入を提案しています。提案の範囲は技術開発、運用、系統構成、ビジネス形態、および電力システムを安全、確実、持続可能、公平、かつ強靭なものにする方法に及びます。』

 日本と米国では政策決定プロセスが異なり、単純な比較はできませんが、このような包括的な報告書を出せる米国がちょっとうらやましくも思えます。日本には日本学術会議(The Science Academy of Japan)がありますが、政府の機関であり、議会がそこに要請することはあり得ません。日本工学アカデミー(The Engineering Academy of Japan)があり、政府から独立した機関なので、期待したいところですが、電力システムに関する提言は過去に1件だけで(i)、しかもこのたびの報告書のような包括性はありません。

報告書の提言は5つの分野にまとめられています。

1. 電力システムの進化についての理解を深める必要がある。
2. 電力エネルギーがクリーンで持続可能であり、信頼性と強靭さの維持が重要なことの確認がいる。
3. 人々が電気をどのように使用するかについての理解を深め、大きな技術変化に直面しても電気を手頃な価格で公平に利用し続けられる「社会契約」を維持する。
4. 電力システムに関連する技術、政策、およびビジネスモデルの革新を促進する。
5. 世界的なサプライチェーンの変化と革新的(破壊的;disruptive)技術が米国に流入しており、国内での技術イノベーションの加速が必要である。

 報告書では、発電機や送電線といった個々の構成要素が10年前、20年前と似たようなものであることとと、電力システム全体が大きく変化しつつあり、長期の未来、たとえば2050年の姿は見通せないことを区別して認識することが必要で、だからこそ今何を為すべきかを見極めて、資源をそこに投入するべきことを力説しています。

 この報告書はレターサイズで300頁を超える分厚いもので、提言の背景にある考察にも注目するべきものがあります。以下、注目すべき章についてコメントします。

 第3章は法制度や規制に関する現状認識(Legal and Regulatory Issues That Shape the Electric System)で、州ごとに異なる電力小売り自由化(ii)の状況なども紹介されています。

 第4章は資金投入に関する現状認識(The Persistent Underinvestment in Electric Power Innovation)です。その図4.2には各国のR&D支出のグラフが掲げられています。2010年から2018年にかけて米国の低迷を示すものになっていますが、次に低迷にしているのは日本です。

Fig. 4.2 RD&D Spending(データの出所はIEAのデータベース)

 第5章は将来の電力システムを検討する上で、考慮に入れるべき技術等の諸事項を詳述しています。

 第6章では、より安全で頑強な電力システムの必要性(Creating a More Secure and Resilient Power System)を論じます。そこでは電力供給を妨げる要因として①自然現象、②事故、③悪意の出来事を取りあげます。①はハリケーンとか雷撃等、②は乗り物の衝突とか人的過誤、③物理的な攻撃やサーバーテロです。電力システムの頑強さは、下図のような4つの段階で悪影響を緩和しなければならないとしています。

 第7章で、前述の5つの分野にわたる提言を説明しています。それらはさらに細分化され、受け止めるべき主体も明示されています。受け止めるべき主体とは、連邦議会や州議会、エネルギー省、ホワイトハウス、国家安全保障会議、EPRI等の研究所、大学、産業などのことで、提言毎に明示されています。

2021-8 電気学会 社会連携委員会


(i) 「電力の自由化について海外先進国から学ぶこと」https://www.eaj.or.jp/app-def/S-102/eaj/wp-content/uploads/2017/05/20170130_denryokujiyuka.pdf (こちらをクリック)
(ii) 電気学会誌が掲載した次の記事は若干古いですが、日本の電力システムの将来を考えていくときに、今でも十分に学ぶべきでしょう。
大橋弘「電力システム改革は何を実現するのか」電学誌、135巻6号、pp.346-347、2015年

  

パブリックコメント募集用原稿
募集日限:2021年10月8日(金)
意見提出方法:社会連携委員会ウェブの「お問合せ」から提出ください。

2021-9-8
電気学会 社会連携委員会

 
自由化時代の 電力インフラの 形成

       

 

イラストの出所:
資源エネルギー庁ウェブページ

 

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 「電力供給エリア間の連系強化の社会的価値」に続いて、「自由化時代の電力インフラの形成」を「一歩先へ(小冊子)」にアップしました。

(※ 先に「一歩先へ」に掲載した「電力供給エリア間の連系強化の社会的価値」(既報)では、規制分野の送配電事業の設備である連系線は、総括原価方式による費用回収の保証により、安定供給等に必要な設備形成が進められることに触れました。この記事では、自由化分野である発電事業においては、どのように費用回収され、安定供給等に必要な設備形成が進められるのかに注目しました。)

 前回、最大で4.8兆円と見積もられる今後の全国の連系線増強費用が、託送料金やFIT賦課金の形で回収が認められる方向と述べました。これは、連系線が規制料金の残る送配電事業の設備として扱われることによると言えます。しかし、安定供給は、連系線を含め送配電インフラの十分な整備だけで実現されるものではなく、言うまでもなく、そもそもの電気をつくる発電インフラも十分に整備されている必要があります。ただし、自由化分野である発電事業は総括原価のような費用回収の保証はなく、そのような自由化の環境下で安定供給維持に必要な設備を形成していくことは実は決して簡単な話ではありません。2021年4月末の電力広域的運営推進機関の公表では、2021年度の夏季・冬季に向けて電力の需給ひっ迫が予想されており、経済産業省の委員会でも、火力発電の休廃止が相次いでいること等により供給力が減少傾向にある背景に「電力の自由化が進展する中で、卸電力市場の取引の拡大及びFITで支援する再エネ電気の量の拡大に伴い、取引価格が低迷し、発電を巡る事業環境が悪化している」ことが挙げられています(ⅰ)。小冊子Vol.7のp.58「5 電力自由化とは」においても、米国や英国を例に、海外の自由化先進国で既に同様の問題が発生しており、日本の電力自由化の留意点として指摘されています。


 ここではまず、電気事業の歴史を振り返り、自由化と電気事業のあり姿について考えてみたいと思います。

〇大正時代~戦前(民営・競争)
 そもそも戦前は現在と同様に、民営の電気事業者がたくさんありました。配電会社同士が自由な料金(ⅱ)による激烈なシェア争いで疲弊・消耗するケースも見られ、配電系統の二重投資も問題となっていました。

〇戦中(国営・独占)
 国家として総力戦を遂行する戦時体制の構築のため、まずは1939年の電力管理法により発電・送電施設は全て日本発送電株式会社の一元管理下に置かれ、次いで1941年の配電統制令により配電会社も9配電会社に再編・統合されることで、電気事業は国家の管理下となりました。その後の地域独占の原形は、この時に出来たと言えます。

〇戦後(民営・独占)
 日本を占領したGHQは、戦争に協力した独占資本の解体(財閥解体)を重要課題に挙げ、日本発送電もその対象とされたため、電力再編が検討され、1951年に発電・送電・配電一貫で9ブロック別の地域独占の民営電力会社が発足しました。特に、1950年代後半から70年代初頭にかけての高度成長期は、民営電力会社として「お役所」的とならずに企業努力を重ね民間活力発揮で「低廉で安定的な電気供給」という公益的課題を達成した、電気事業の歴史全体のなかでも特筆すべき「黄金時代」でした(ⅲ)。以来1990年代に電力自由化が始まるまで、この体制が維持されました。

 

 それでは、自由化の前後で電気事業の全体像、その中でも発電事業の事業環境がどのように変化しているのかを見ていきましょう。

 自由化前で電力マーケットもなかった時代の電気事業者の費用回収は、図1のようなものでした。電気事業者は主には、発送配電が垂直統合された地域独占の電力会社のみです。そこで電気事業のあるべき姿の実現の土台となっていたのが、総括原価方式に基づく電気料金制度です。電気事業者が営業に必要なコスト、すなわちバランスの取れた電源構成により安定供給と環境適合を満たしつつ電気を作り、送り、届けるのに、発電部門、送配電部門、販売部門でかかるコストを全て、丸ごとまとめた合計に「適正な利潤」を加えたもので電気料金ができていた、ということです。発電所についても、総括原価方式により投資回収の心配なく高度経済成長期の需要を満たすべく作ることができていました。
 しかし、既報記事でも記載の通り、独占では競争原理が働かず、諸外国と比較した電気料金の高止まりが問題視されるようになりました。諸外国で電気事業の自由化が開始されていた背景も重なり、1990年代半ばから日本においても、競争原理の導入が馴染みやすい発電部門が、続いて小売部門が段階的に自由化される流れとなりました。再生可能エネルギーを含めた新規の発電事業者や小売事業者(新電力)など、新しい形態の事業者が数多く生まれました。

 第1図   自由化前の電気事業  (社会連携委員会にて作成)

 

 第1図はとてもシンプルでしたが、今は大きく変わっています(第2図参照)。

 
 第2図   自由化後  (電力システム改革後)の  電力取引市場の全体像

(第28回 電力・ガス基本政策小委員会(2020年10月)資料7「将来の電力産業の在り方について(P7)」を元に社会連携委員会にて作成)

 

 まず、東日本大震災後の電力システム改革で、電力会社の送配電部門が別会社の送配電会社となっています。送配電事業は非自由化分野ですが、発電分野と小売分野は自由化されています。送配電部門については、引き続き二重投資防止のためにも公的規制の下での独占が望ましく、また全ての事業者が共同利用するという特性上、発電・小売部門とは分離して中立化しつつ、広域的な連携等を促進することとなりました。

 発電事業者と小売事業者が参加し取引する電力市場としては、まず、実際に発電された電気(kWh=キロワットアワー)の価値を取引する卸電力市場(ⅳ)が設立されました。

 自由化の環境下では、発電事業者の収益は競争環境や市場環境の影響を受けます(ⅴ)。適正事業報酬という概念はなくなり、とても儲かることもあれば、費用回収できず赤字となることもあります。赤字となる競争環境が見込まれる時、発電事業者は新規建設せず、既存の発電所も廃止するでしょう。市場メカニズムで無駄な設備は作らない、減らしていく、という限りにおいては本来の自由化の目的に合致しますが、ちょうどよい加減というのは難しいものです。このように、自由化の環境下、特にkWh価値を取引する市場のみでは発電事業者の費用回収の不確実性により安定供給上の課題が生じることや、その克服のため更なる市場メカニズムが導入されていることに関して、海外での先行経験が知られておりました。

 そこで、東日本大震災以降の電力システム改革で、自由化の環境下でも安定供給を維持するための仕組みとして、「容量市場」、「需給調整市場」が創設されました(ⅵ)。これらは、安定供給に必要な供給力(kW=キロワット)の価値と需給調整力(ΔkW=デルタキロワット)の価値を不足なく、競争原理の活用で効率的に調達し(第2図の①)(ⅶ)、かつその費用は確実に回収する(第2図の②)という意義があります。発電事業者の視点からも、これらの市場を通して、供給力kWと需給調整力ΔkWを供給し安定供給に貢献すれば追加的な収入が得られ投資回収予見性が向上(第2図の③)するという意義があります。
 このように、発電インフラ整備を担う発電事業者に対しては、自由化環境下で制度としての総括原価がなくなっても、電気の安定供給に必要な発電インフラの整備とその確実な費用回収の必要性は変わるものでないため、市場の仕組みで競争原理を導入しつつも、総括原価方式の長所であった投資回収予見性の要素を残そうとしている(ⅷ)と言えます。
 しかし、容量市場や需給調整市場が創設されても、競争環境や市場環境には本来的に不確実性・変動性がある限り、発電事業者の費用回収に絶対の保証がなされることにはなりません。逆に市場が高騰し発電事業者がとても儲かる場合には、需要家負担の小売り料金も適正水準を超えて高騰する可能性があることにも変わりはありません。市場メカニズムを用いて電力インフラ形成と電気事業のあるべき姿を実現していくには、国家の関与による制度設計や市場監視が重要となります(ⅸ)。個別の制度設計が一つ一つ狙い通りに機能しているか、情報公開を進めつつ継続的に丁寧な議論と検証が必要です。
 また、今後の脱炭素社会の実現には、単に供給力を確保できれば良いだけでなく、再生可能エネルギーの大量導入や火力の脱炭素化など、目指すべき電源構成を構築しながら供給力を確保していく必要があります。電気事業に限らず社会全体で巨額のインフラ投資が必要となります。規制的手法と経済的手法のバランスによりコストを抑制しつつ必要なインフラ形成をいかに促進していくか、料金を通した回収に加え社会全体でいかにコストを負担していくか、投資回収予見性や国家の関与の在り方は、やはり重要な課題となっていきます。

 

 最後になりますが、電力システム自体の物理的特性や電気という商品の特殊性に伴う技術的課題の多くは、自由化によらず不変に存在し続けます。それと同時に、再生可能エネルギーの大量導入や火力の脱炭素化等を前提とする電力系統運用や社会全体の変容を見据え、電気工学上も「一歩先」の新たな技術的課題(ⅹ)に取り組む必要が出てきます。そして、電力システムの物理特性に悪影響を与えることなく市場メカニズムを導入していくためにも制度設計上の多くの技術的課題が新たに加わり、これを克服するためには、電気工学の広範な知見が必要になります。電気の知識は将来もますます輝き続けることとなるでしょう。

以上


(ⅰ) 第35回 電力・ガス基本政策小委員会 資料3-1「2021年度夏季及び冬季の電力需給の見通しと対策について
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/035_03_01.pdf
(ⅱ) 総括原価方式による料金認可制度が実際に日本で適用されたのは戦前の1937年です。
(ⅲ) 電力制度改革の核心にせまる(その3 )歴史からの提言―求められるビジネスモデルの転換 橘川武郎 www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/54/9/54_588/_pdf
(ⅳ) 日本卸電力取引所(JEPX)において、1日前市場である主力のスポット市場に加えて、時間前市場やベースロード市場、等が追加されています。
(ⅴ) 発電事業者に注目すると、相対契約による特定の小売電気事業者への販売専用の発電所(旧一般電気事業者の発電所にこのケースが多い)は小売電力市場での競争により販売価格(=小売電気事業者の許容買取価格=小売単価―託送単価)が変動します。小売電気事業者ではなく卸電力市場へ販売をする発電所の場合も、やはり市場価格の変動にさらされます。多くの発電所で、実際には両方の要素があります。
(ⅵ) 非化石電源で発電された電気に付随する環境価値を小売り事業者が発電事業者から調達する「非化石価値取引市場」も創設されています。
(ⅶ) 電力の需給調整は、従来からエリア毎の調整を基本としながら連系線を活用した予備力持合い等で広域運用メリットを実現してきましたが、2021年3月から、実受給の1時間前であるゲートクローズ後の需給調整の広域化(=広域需給調整)の運用を開始し、さらなるコスト低減が実現されることとなっています。自由化が技術開発を促進しコスト低減を顕在化させた好例と言えます。詳細は電気学会の用語解説「広域需給調整」のページをご覧ください。https://www.iee.jp/pes/termb_124/
(ⅷ) 新市場の創設の他にも、発電コストが高く自然体では導入が進まない再エネの電力を十分に高い固定価格で買い取るFIT制度が導入されました。市場メカニズムを用いずに発電事業者の投資回収予見性を向上させる手法と言えます。一般家庭の屋根置きの太陽光を含め再エネの導入が拡大した光の部分と、十分な競争原理が働くことなく再エネ導入が拡大したことによる国民負担(FIT賦課金)の増大という影の部分があります。
(ⅸ) 冒頭に記載した2021年度の需給ひっ迫への対応としても、供給力の確保に向けた追加的な対策やその費用負担について、また2022年度以降の構造的対策としても、火力電源の過度の退出を防止する仕組みや新規電源投資について長期間固定収入を確保する仕組みの導入が検討されています。これらも現状の市場メカニズムを絶え間なく検証し補完していく取り組みの一環と見ることができます。
(ⅹ) 例えば、周波数・電圧維持の在り方、超長距離直流送電や、自動車の電動化に伴う諸課題などが考えられます。

  


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