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電力供給エリア間 の連系強化

 

1 飛騨信濃周波数変換設備の運用開始

2021年3月末に次のような報道がありました。
『東京中部間に建設された「飛騨信濃周波数変換設備(FC)」が31日に運用開始する。中部電力パワーグリッド(PG)が岐阜県高山市内に、容量90万キロワットの飛騨変換所を新設。東京電力パワーグリッド(PG)は既存の新信濃変電所(長野県朝日村)に交直変換設備を増設、飛騨と新信濃を結ぶ飛騨信濃直流幹線(亘長89キロメートル)の建設を担った。運開後のFC容量は、現状の120万キロワットから210万キロワットに拡大する。』(電気新聞2021/03/30;関係各社もプレスリリース1) を行い、NHK等でも一斉に報道)

 第1図 飛騨変換所
(中部電力PG(株))

90万キロワットは一般家庭約30万世帯分の電力消費に相当する規模です。新設された飛騨変換所の全景を第1図に示します。

 

2 小冊子記事と関連づけた解説

小冊子「電気の知識を深めようシリーズVol.5 - 電気を送る・配る」のpp.16-20には、日本の電力システムの現状と歴史を簡潔に説明した「電力システムの規模について調べる」があります。この小冊子は2016年に発行されましたが、その後も電力システムで、新たな進歩の歴史が作り続けられています。東京中部エリア間の連系を中心にして、本州と北海道の連系にも触れる形で、小冊子の記事を補ってみましょう。共通するキーワードは「直流連系」「連系強化」「電力融通」で、その背後にある考え方は、公益性の高い電気エネルギーの安定供給と効率運用です。なお、電力システムや電力系統、グリッドなどの用語については、小冊子Vol.5のp.17の脚注に説明がありますので、参照してください。


東京側(東日本)のグリッドは交流(AC)の電気で、その周波数は50ヘルツ(Hz)で、中部側(西日本2) )も同じ交流ですが周波数は60Hzです。周波数が異なるグリッドを直接つなぐことはできません3) から、一度交流50Hz(60Hz)を直流(DC)に変換(順変換)して、それを交流60Hz(50Hz)に変換(逆変換)する形でつなぎます。グリッド同士をつなぐことを「グリッド連系」と呼びます4)
一方のグリッドで電力が不足し、他方に余剰があるとき、連系線を通して電力を融通すれば電力の不足を解消できます。公益性の高い電気エネルギーの供給信頼度を高くできれば、社会的に価値があります。東日本と西日本の間は佐久間、新信濃、東清水の3か所の周波数変換設備(FC)で連系されています 5)。冒頭の報道は、これら3か所のうちの新信濃に関わります。第2図に図示してみましょう。当初60万キロワットだった新信濃変電所の周波数変換設備は、東日本大震災の結果で生じた東日本の電力不足を背景として、120万キロワットに拡充されていましたが、今回飛騨変換所の開設に伴ってさらに90万キロワット拡充されて、この地区の連系容量が210万キロワットになりました。

第2図 長野と岐阜にまたがる連系設備(飛騨信濃周波数変換設備)

 

3 技術開発

この背景には、いろいろな技術の研究開発がありました。第2図や周波数変換設備の写真(第3図)を見ながら、グリッド連系にかかわる技術について考えてみましょう。まず、どこにどれだけの規模の設備を作るかの検討が必要になります。電力自由化6) に関連した産業組織論的研究や電気エネルギーの社会インフラの重要性など、多様な研究が必要になります。どこにどれだけの規模の設備を置くと、電力系統にどのような影響が及ぶのかも電力系統工学的な重要な研究になります。発電所、送電線、需要家それぞれの工学的振る舞いはかなり明確に表現できますが、それらをつなぎ合わせた電力系統は、人間一人ひとりが個性を持つように、異なった特性になります7) 。日本の電力システムは10のエリアに分けて考えるのが一般的ですが、それぞれのエリアが異なる特性を持っていますから、ある特定のエリアを連系すると、今回の場合は東京電力PGと中部電力PGのエリアを周波数変換設備で連系すると、グリッドがどのようにふるまうのかをきちんと研究することが必要になります。そこでは安定度8) とか信頼性など、いろいろな側面からの検討がなされます。

 (a) 飛騨変換所側
提供:中部電力パワーグリッド(株)
 
 (b) 新信濃変電所側
提供:東京電力パワーグリッド(株)

第3図 周波数変換設備


4 東西連系

 周波数変換設備そのものにも、いろいろな研究開発課題があります。中核部品はサイリスタと呼ばれるパワー半導体で、それ自体の性能向上も日進月歩です。サイリスタを組み合わせて装置にし、それを的確に制御する技術も高度なものです。飛騨変換所と新信濃変電所の間は直流送電線で結ばれていますが、その両端には直流遮断器がおかれています。何か事故があったときに送電線を自動的に機械的に遮断して、事故の悪影響を防止するのですが、この直流を切る技術はたいへん高度なものです9)

東日本大震災(2011年3月11日)当時の東西連系ポイントは、前述のとおり3ヶ所あり、Vol.5にもあるように新信濃が60万キロワット、佐久間10) と東清水がそれぞれ30万キロワットでした。その後の展開を表にしてみましょう。小冊子発行時の連系容量は東日本大震災発生時(2011年3月)と同じで、3地区の周波数変換設備(FC)合計で120万キロワットでした。それが現在は210万キロワットになり、2020年代終盤には330万キロワットに増強されて、電力の安定供給、効率運用に貢献してゆくことになります。

第1表 東西連系容量

 

5 北本連系

最後に、本州北海道のグリッド連系に触れます。小冊子Vol.5の図6「日本の電力システム(連系グリッド)」(p.18)の北本連系線11) にかかわります。そこには次の記事があります。

第4図 北海道・本州間連系の2ルート

提供:北海道電力ネットワーク(株)


『北海道と本州は函館と上北に交・直流変換設備を設置し、この間を架空送電線および海底ケーブルで結んでいます。』
北海道ネットワークも東北電力ネットワークも、周波数は同じ50Hzですが、その間に横たわる津軽海峡は、空に送電線を通せるほど狭い海峡ではありませんから、海底ケーブルで結ぶことになります。長距離の海底ケーブルでは交流は使えず直流にしなければなりませんので、両側に交直変換設備を置いてその間を直流送電線で接続することになります。

この連系線は北本直流幹線と呼ばれ、当初30万キロワットで運用を開始し、その後2倍の60万キロワットに増強されて運用されていました。常時の需給調整に使われつつ、2011年の東日本大震災に際しては、北海道からの電力供給支援に大きな力を発揮しました。その後さらなる設備増強の必要性が議論され、第2の設備として新北本連系設備(正式名称:新北海道本州間連系設備)12) の新設が決まりました。海底ケーブルは青函トンネル内を利用して敷設しています。2014年に送電線の設備工事が開始になり、2019年3月28日に運用開始しました。設備容量は30万キロワットです。二つのルート合計で90万キロワットの電力融通が可能になりました(第4図13) 、第2表参照)。地球環境問題で温暖化ガス排出の実質ゼロ化が叫ばれ、太陽光発電や風力発電が注目されています。風力発電は風況がよい地域でないと設備効率が上がりませんが、北海道には適地があり大規模な開発が期待されています。風次第の不安定な電源設備ですから、北海道エリア単独では系統容量が小さいのでその悪影響が問題になりますが、北海道本州の二つのルートを運用することで、系統運用の安定性、柔軟性の向上が期待できます。

第2表 北海道・本州連系容量


北海道といえば、2018年9月6日(水)午前3時8分に発生した北海道胆振東部地震と、それに伴うブラックアウトを記憶されている方も多いでしょう。この地震のときにもし北本第二ルートが運開していたら、ブラックアウトはおこらなかったとの見方があります。わずか7ヶ月の差で、間に合いませんでした。歴史にタラレバはありませんが、社会インフラとしての電力設備を開発し運用している努力が、関係者によって日夜続けられていることは理解できますね。

 

6 さらに先へ

ここで解説したグリッド連系について、さらに知りたい方のために、いくつか参考課題を提示してみます。
(1) 前章までの説明は、周波数が異なるエリア間の連系、あるいは周波数が同じだが遠く離れているエリア間の連系です。それ以外の連系もあります。日本全国にある連系設備を調べ、なぜそこに連系設備が必要なのか考えてみましょう。
(2) 二つの交直変換設備を向かい合わせにして間の距離をおかずに直結する接続方式を、バック・ツー・バック接続(BTB)と称します。異なる周波数のグリッド間連系ではBBは一般的ですが、同じ周波数のエリア内でもBBを用いる場合があります。それはどのような場合なのでしょうか。
(3) 交直変換設備には二つの制御方式があります。他励式と自励式です。それぞれの長所と短所を調べてみましょう。(ちなみに、従来からある北本連系設備は他励式、新北本連系設備は自励式が用いられています。)
(4) 記事冒頭の説明に出てきた新信濃変電所は東京電力パワーグリッドの変電所ですが、所在地は長野県朝日村です。長野県にお住まいの方は「アレッ」と思われたのではないでしょうか。そうです。長野県の送配電事業者は中部電力パワーグリッドで、電気の周波数は60Hz。東京電力パワーグリッドは50Hzです。どうしてこのようになっているのか調べてみましょう。(ヒント)黒四ダムを管理するのはどこの会社でしょうか。

以上(2021.4 社会連携委員会)


1) プレスリリースはたとえば次のもの。
 https://www.tepco.co.jp/pg/company/press-information/press/2021/1591426_8616.html
 https://powergrid.chuden.co.jp/news/press/1206089_3281.html
 https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2021/04/0401b.html
 https://www.toshiba-energy.com/info/info2021_0401.htm

2) 日本の電力供給エリアを東日本地域、中日本地域、西日本地域と、三分する場合もあります。その場合には中部電力PGは中地域になります。また、電力自由化以降、電力供給を担う事業者が多様化され、東京電力管内とか中部電力管内といった呼称が使いにくい場合が増えました。そのため、東京エリアとか中部エリアと呼ぶようになってきています。旧来、日本には10電力があると言ってきましたが、今は10のエリアがあるということになります。またエリア間の連系が安定供給と効率運用にたいへん重要になってきており、その中核的役割を電力広域的運営推進機関(OCCTO;オクトと略称、設立は2015年4月1日)が果たしています。OCCTOには全ての電気事業者に加入する義務が課せられています。電気事業者は送配電事業者、小売電気事業者、発電事業者からなります。

3) 小冊子Vol.5のp.19の脚注19参照。

4) 用語は連系であって、連携ではありません。発電、送配電(グリッド)、電力消費を含む全体を「電力システム」と呼び、この送配電(グリッド)部分を「電力系統」と呼びますが、異なる系統を電気的に連絡するのですから「連系」です。グリッド連系と系統連系は同じ意味です。

5) 小冊子Vol.5の図6(p.18)参照。

6) 小冊子Vol.7に「5 電力自由化とは」(pp.58 - 73)参照。

7) 小冊子Vol.5のp.16のコラム「電力システムは巨大生物 ~ まるでマンモス、そして人類が創造した最大級の複雑システム」をご覧ください。

8) 電力系統の安定度についてはここでは触れません。関心がある方は小冊子Vol.5の「4電気の性質をうまく使って届ける」(pp.73 - 110)をご覧ください。

9) 直流の遮断技術については、小冊子Vol.7の「直流技術の研究開発」(pp.37 - 38)をご覧ください。

10) 佐久間周波数変換所はその歴史的価値を広く世の中の方々に知っていただくため、電気学会の「でんきの礎」(第10回)で顕彰しています。
 https://www.iee.jp/file/foundation/data02/ishi-10/ishi-0809.pdf

11) 北海道・本州間電力連系設備(北本直流幹線)は日本初の本格的直流送電設備です。その歴史的価値を広く世の中の方々に知っていただくため、電気学会の「でんきの礎」(第6回)で顕彰しています。
 https://www.iee.jp/file/foundation/data02/ishi-06/ishi-2021.pdf
電気学会誌にも次の記事があります

10) 小冊子Vol.7に「5 電力自由化とは」(pp.58 - 73)参照。

11) 小冊子Vol.5のp.16のコラム「電力システムは巨大生物 ~ まるでマンモス、そして人類が創造した最大級の複雑システム」をご覧ください。
電力系統の安定度についてはここでは触れません。関心がある方は小冊子Vol.5の「4電気の性質をうまく使って届ける」(pp.73 - 110)をご覧ください。

 竹之内 達也「北海道•本州間電力連系設備の概要」、電学誌100巻8号 pp. 727-734(1980)
 https://www.jstage.jst.go.jp/browse/ieejjournal1888/100/8/_contents/-char/ja

12) 送電線の名称は「北斗今別直流幹線」です。

13) https://www.hepco.co.jp/network/stable_supply/efforts/index.html

 

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