電気学会 社会連携委員会
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著者からのメッセージ

 

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▶︎  Vol.5の著者からのメッセージ

▶︎ 「忘れられた巨人 サミュエル・インサル」の著者からのメッセージ

 

「電気の知識を深めようシリーズ Vol.5 電気を送る・配る」について


飲料水が水道管を通して送られ、都市ガスがガス菅によって配られるように、電気もま た電線を介して家庭や工場に広く届けられています。では、ただ電線を引いておきさえす れば、何百キロ遠く離れた発電所からでも、スイッチを入れれば欲しい量の電気が、何時 でも、直ちに、そして確実に私たちに届くのでしょうか。
実は、この仕組みはそう単純ではないのです。そこには電気の優れた特徴を利用した種々 の工夫が隠されています。日頃、私たちが心置きなく電気を使うことが出来るのも、電気 に固有なさまざまな働きを巧みに駆使した、人間の英知によって可能になっているのです。
電気を起こし、送り配って、使う、そうした一連の機能を持つシステム全体は電力シス テムと呼ばれています。その全貌は一般に人々の眼に容易には映り難いのですが、“電力シ ステムは人類が創造した最大級の細緻な複雑システム”とも称されているのです。
この電力システムのうちで、とりわけ「電気を送る・配る」の部分は普段は余り目立ち ませんが、電気の配送という重要で不可欠な役割を担っているとともに、そこには興味深 いたくさんの技術も実に整然と織り込まれているのです。本冊は、電気を配送する設備や 技術、それに関わる電力システム、さらに電気の届く仕組み等について易しく解説してい ます。


忘れられた偉人  サミュエル・インサル
 

 科学史や技術史を学ぶことは,過去の時代における最先端研究や,関連の発明,そしてその技術成果の社会への普及・浸透に携わった人々の個性に触れ,時にはその喜怒哀楽までを追体験することにもなります。この本は,20世紀の電化社会への移行期に,その仕組みを事業として組み立てることに先進的に貢献したサミュエル・インサルという「忘れられた」偉人についてご紹介するものです。

 電気の世界を振り返りますと,19世紀中半までに,「電磁気現象の発見」と理論的裏付けが完成します。電気に関する科学上の発見に携わった先人としてフランクリン,クーロン,ボルタ,エルステッド,アンペール,オーム,ファラデー,ヘンリー,ガウス,ウェーバー,などのそうそうたる偉人たちの名前がたちまちのうちに思い浮かんできます。そして電磁気学の集大成ともいうべきマクスウェルの「電磁場の動力学的理論」が公刊されたのは1865年です。この電磁気現象の発見の時代を経て,「電気の実用化」のために必須の発電機,変圧器,モーター,電球などの「発明」が,トーマス・エジソン,ニコラ・テスラなど多数の人々の才能と努力によって19世紀後半までにほぼ出そろいます。そして,20世紀に入り急速に社会は,主として交流に依拠する電化社会に向かい始めます。そのためには,電気を社会にあまねく,安定的に,安全に,かつ安価に供給する仕組み,すなわち発送配電システムに立脚したソーシャル・インフラストラクチャーの構築が必要とされる時代に入ります。

 当時「発明王」トーマス・エジソンに仕え,いわば番頭として苦楽を共にしていた英国出身のサミュエル・インサルという若者が,奇しくも,無限に広がる巨大な可能性に満ちた電力供給という分野に身を置くことを決心し,のちに巨大な電力会社の経営者として電力業界をリードすることになります。彼は,その師たるトーマス・エジソンを含めた同時代人が切り開いた電気に関する発見と発明の成果に基づいて,社会を電化するために独創的な事業モデルを創出し,その実現にまい進します。彼はまさにJ.A.シュンペーターが言うところの「イノベーション」を電気事業にもたらした人です。経営学者ピーター・ドラッカーは,発明家トーマス・エジソンにはマネージメント能力がなかったために,彼の電気事業の夢はことごとく失敗したと看破していますが,彼が終生「サミー」という愛称で呼んだサミュエル・インサルという後継者を見出した点で,立派に時代の要請にこたえたと私は感じています。

 さて,サミュエル・インサルが,電気事業に,当時としては画期的なイノベーションをもたらした思想について少し詳しくみてみましょう。彼は,自らの体験から次のような考えを持つにいたりました。そして,それを忠実に実行したのです。
① 電気事業は規制機関の監視のもと「自然独占」が許されるべき
② 電気事業には「総括原価主義」による認可料金体系とし,適正利潤の保証によって投資回収機会が与えられるべき
③ 電気事業は,需要家に対する「供給責任」を負う。
④ 電気料金の低減化を規模の利益で実現すべきこと。そのために「負荷平準化」と「大電力系統構築」を図るべきこと。需要喚起のための料金体系と,それを可能とする計量方法を導入すべきこと。

 日本では,昨年2020年に電気事業の自由化が完了して,上記のようなサミュエル・インサルの思想に源流を持つ体制から,すべての参入希望者に開かれた「完全自由化」という新しい時代に入りました。しかし歴史はとどまることを知りません。いま自然エネルギーの大量導入,脱炭素化への電源の転換,IT化による大電力需要という新しい要素が加わって,さらなる変革と対応を迫ってきています。技術、事業、制度、生活のあり方など、あらゆる面で解決が待たれる課題が山積しています。この小冊子によって,歴史を知り,歴史から学ぶことが,これらの課題解決の一助ともなればと念じています。



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